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「……やっぱ、オンボロ小屋は駄目っすかね」
田坂が恐る恐る聞くと
「いやいや、そうじゃない。逆に、そんな風に見た目で判断してはいけない」
と、厳しく制した後、東野はポツリと言った。
「駄菓子屋……公園……なんだったかな」
「……何か知ってるんですか?」
東野の表情になんとなく不安を覚えながら、田坂は再度聞いた。
「いや……なんでもない。その駄菓子屋、行くだけ行ってみてもいいんじゃないか?」
あまり期待せずにな――最後にそう言って、東野の視線はパソコンの画面へと移行した。田坂も、先ほどまで打っていた業務日報を仕上げることにした。
そして、明日の予定欄に『新規開拓予定――駄菓子屋』と入れた。
翌日、午前中は得意先周りに専念することにした。
新規の顧客ではないにしろ、それなりに商品の注文をもらい、田坂にしては上々の出足だった。
「今日はついてるな」
いつもの公園で昼食を簡単に済ませる。
今日は菓子パン二つと缶コーヒー。一人暮らしの田坂には、弁当を作ってくれる相手もいなければ、自分で作る気力も無い。コンビニの弁当か菓子パンが常だった。
昨日の喧騒とは打って変わって、今日の公園は人影もなく静まり返っている。
心地よい風に吹かれてぼんやりしていると、満腹感も手伝って眠気が襲ってくる。
「……っと、このまま座ってたら確実に昼寝だな」
田坂は立ち上がり、思い切り背伸びをした。次に頭を大きく左右に振って、眠気を吹き飛ばした。
公園の出入り口にあるゴミ箱に缶とビニール袋を投げ入れて、田坂はいよいよあの駄菓子屋へ向かうことにした。
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