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そこからは、まだ店が見えない。
公園を出て道路を横断し、向かいの歩道へと渡る。そこから右に曲がり暫く真っ直ぐ歩くと、左手に古ぼけた軒先が見えてきた。
「おっ! あった、あった。しかし……こんなに公園から離れてたっけ?」
自分の記憶に首をかしげながら、田坂は足を進めた。
店の正面に立ち、改めてその外観を眺める。
「……すげー古いよな。築何年だろ」
文字が薄れていてほぼ読み取り不可能な看板。軒先から地面へと続く樋は、節々に穴が開いていてその機能を果たしていない。
一通り見て回り、そっと店内へと目を向けるも、そこは真っ暗で何も見えない。
「開いてないのか? もしかして」
ついてないや――そう思いながら、田坂はガラスの引き戸に手をかけた。
すると、建てつけよくスッとその戸は左へと動いた。
「……っわ!」
思わず声を漏らしながら、田坂はその店内へ一歩足を踏み入れた。
「ごめんください」
中へ入ると真っ暗ではなく、薄暗いといった感じだ。
恐る恐る声をかけるも、反応はない。
「すみません。どなたかいらっしゃいませんか?」
少し声を張り、店の奥目掛けて尋ねた。
すると
「……はいはい、居りますよ。少々お待ちを」
という、のんびりとした声が聞こえてきた。
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