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その日私は、借りていたCDを返すためにマコトと会う約束をしていた。
夕方からサッカーの練習に行く彼と、その前に公園で会うことになっている。
「お腹が空くだろうから何か買って行くか……」
その近くの、今では珍しい駄菓子屋に入る。薄暗い店内には他に客もいない。
少しでも腹の足しになるものを――と探し、5個入りミニあんパンを手に取る。老店主に代金を払っていると、小さい男の子が私に近づいてきた。
「お姉ちゃん、これあげる」
そう言って、男の子は綺麗な七色のキャンディーを差し出した。
断るのも悪いと思い、礼を言って口に放り込む。
「それね、何でも願いゴトが一つだけ叶うキャンディーなんだよ」
「そうなんだ。ありがとね」
手を振って別れ、公園へと急ぐ。
先に到着していたマコトにCDを返し、あんパンを渡す。早速、美味しそうに頬張る彼を見て、悪戯心が沸き起こる。
「……食べたわね」
「ん? 食べちゃいけなかったのか?」
私は、声を潜めた。
「……実はそのあんパンね、ロシアンあんパンっていって、味も見た目も同じなんだけど一つだけアタリがあるの。それを食べた人は、その日から身の回りで奇妙なことが起こり始めてね……すごい恐怖を味わうことに――」
マコトは二つ目のあんパンを手に取り
「はいはい。分かったからお前も一つ食べろよ」
と、呆れたように言った。
「ちぇっ! やっぱ信じないか」
「……当たり前だろ」
すっかり食べ終えた私たちは、笑いながら公園を後にした。
その日の夜遅く、マコトから電話がかかってきた。
何だか様子がおかしい。
「どうかしたの?」
「お前、あのとき変なこと言ってなかったっけ? 俺……あれから友達がサッカーの練習中に骨折するし、上司の奥さんが急死するし、それに――うわっ!」
「なに!? どうしたの!?」
「隣が火事だっ!」
叫び声だけを残して電話は切れた。
急に鼓動が激しくなる。
――なに?
一体なんなの?
変なことってなんだっけ?
そこまで考えてハッとした。
もしかして……?
でも、あれは思いつきで言った冗談だし
そんなことある訳ないし
……いや、待って!
その前に、何か――
「ま……さか……」
私は急いで玄関へ向かった。あの、あんパンを買った駄菓子屋へ行くために。
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