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奈緒は緊張していた。
「……早く来過ぎちゃった」
約束の時間までは、まだ三十分以上ある。
「なんか喉渇いちゃったな」
待ち合わせ場所の公園へと歩いていると、前方に古ぼけた駄菓子屋を見つけた。
「こんなとこに、こんなお店あったっけ?」
不思議に思いながらも喉の渇きには勝てず、フラフラと吸い寄せられるように近付く。
店先から店内を覗くが、薄暗くてよく見えない。
なんとなく足を踏み入れるのを躊躇い、店先に置いてある自動販売機へと手を伸ばす。
「飲み物は新しいんだ……って、当たり前か」
店の雰囲気にそぐわない機械から、緑茶のペットボトルを取り出す。
すぐに蓋を開け、一口二口と喉に流し込む。冷えた液体は、心地よく奈緒の体内へと流れ込み、染み渡る。
「ふう……」
少し落ち着き、もう一口飲んでいると
「ねえねえ、お姉ちゃん」
と、背後から話しかけられた。
「ん?」
奈緒が振り向くと、そこには小さな男の子が立っていた。
「お姉ちゃん、これあげる」
そう言って差し出した右手には、七色に光る綺麗なキャンディーが一つ乗っていた。
「綺麗な飴ね。でもこれ、ボクのでしょ? もらっちゃ悪いわ」
奈緒が断ると
「いいの。いっぱい持ってるから。これ美味しいんだよ。はい、どうぞ」
と、にっこり笑って腕を前に伸ばした。
笑顔で言われると断りにくいし、何より本当に美味しそうだった。
今からのことを考えると、甘いものを食べてリラックスするのも悪くない――奈緒は礼を言い、そのキャンディーを口に放り込んだ。
「ん! ホント美味しい! ありがとね」
「よかった。それね、なんでも願いゴトが一つだけ叶うキャンディーなんだよ」
「願いごと、か……」
子どもの戯言とは思いながらも、願いごととと言われて奈緒は考えずにはいられなかった。
――真一くんと、永遠に結ばれますように……
「どうかしたの?」
男の子の声にハッとし
「あっ……ううん、なんでもない。ありがとね」
と、再度礼を言い、軽く手を振って店先から離れた。
いよいよ公園へと向かう奈緒の後姿を、いつのまにか駄菓子屋から出てきた老店主がじっと見つめていた。
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