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「難しい願いゴト言うからさ、結構大変なんだよね」
笑ってそう言う男の子に対して、奈緒はおそらく本能で物凄い恐怖を感じていた。
「あっち行って……なんなの……なんなのよーっ!」
思い切り叫んでも真一はその手を離さず、いよいよ奈緒の腕はあり得ない方向へと捻じ曲げられていく。
男の子は、きょとんとした顔で首を傾げ、無邪気な声で言い放った。
「なんなのって。言ったじゃない、願いゴトが一つだけ叶うって」
奈緒の腕に激痛が走る。悲鳴を上げながら
「私の願いごとは真一くんと永遠に結ばれるようにってことよ! こんな……こんなこと……腕を折られることじゃないわっ!」
「――だから、結ばれたいんでしょ?」
少しだけ低い声で男の子が呟いた。
それが耳に届いたのか、次に真一は奈緒の上半身を右横に、直角に曲げようとし始めた。
「いやーっ! い……うっ……」
信じられない力で体が歪んでいく。
「どうやったら上手く結べるのかなあ。僕……蝶々結びへたくそだから、いつもおじいちゃんに怒られるんだ」
体中が、髪の毛一本までもが痛みを感じ、いよいよ精神は限界を迎え、奈緒の意識は朦朧としてきている。
――結ぶ
……ああ、そうか
結ばれるって、紐を結ぶのとは違うのよ――言ったつもりだったが、実際には喉の奥からヒューヒューと空気が漏れる音がするのみ。もはや喋ることはおろか、口を閉じることもできない。
「そうか……僕、間違えちゃった!」
わざとらしく口に手をあてる仕草を、奈緒の目は、ただ映していた。
「かた結びでいいんだね……お姉ちゃん」
奈緒の体は右へ、真一の体は左へ折れ、真一の胸から飛び出た肋骨のささくれた先が、奈緒の肺を突き刺す。
お互いの上半身が、お互いの下半身に口づけるように折れ曲がる。
腕は脚に絡め合い、体液が艶かしく光りながら滴り落ちる。
男の子の姿は既にそこにはなく、それに気付く人も、もういない。
仕上げにバタリと倒れ込み、肩から筋のみが繋がった腕できつく抱き合う……そう、永遠に。
(完)
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