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「痛っ……!」
少年は全身に“奇妙な痛み”を感じた。
激しく痛むわけではない。しかし関節が軋んだり、皮膚が突っ張ったりし、痛みのような刺激が走るのだ。そんな微妙な痛みが気になり彼は跳び起きた。だが同時に激しい頭痛が襲い、呻き声をあげる。
「痛…い…!!なんだ…なんでこんな…?」
少年は自分の身体と、そして周囲をゆっくりと観察した。身体には至る所に包帯が巻かれているのだが、何故自分がこんなに傷付いているのか分からない。また、何故自分が小さな寝台で寝かされているのか、この真っ白な部屋は何処なのか、何かもか思い出せなかった。
「…どうしてこんな傷が?」
「もう目覚めたのか…早いな。」
部屋に一つだけあったドアから男が入ってきた。身長は高く、黒いスーツを着ているためか気品がある。男は白髪交じりの髪をオールバックにまとめており、鋭い眼差しと口元の髭が印象的だった。だが一番眼を引くのは、剣と、その剣を握る手のマークがプリントされている赤いネクタイだった。
「おはよう。気分はどうかな?自分の名前は解るか?」
「………伊藤慧(いとう けい)。気分は悪くない。」
慧がそう告げると、男は微笑みながらネクタイをなで始めた。そして小さな声で呟く。
「そうか……やはり脳の保護を優先させたのが良かったみたいだな……記憶の方は“ブレイン”の補助が要らないようだし……」
「なぁ……アンタ誰だ?なんで俺はこんなところにいるんだ?」
「ああ、失礼した。私のことは“ミスター・シャープトン”とでも呼びたまえ。君の保護観察を担当することになった。宜しくな。思い出してきたかな?君は空中電車を待っている時に誤ってホームに転落し電車に接触。頭部以外はバラバラだ。頭は無傷というから奇跡だな。」
一気に説明され、慧はいまいち理解出来なかった。唯一理解出来たのは空中電車、という単語だ。
空中電車、通称“空電”とは、センサーに反応して進む電車だ。空気に浮くことが可能なので従来よりも立体的で複雑なコースを進めるようになっていた。慧は空中電車がとくに複雑化している都市部で生活していた。そして、久しぶりに外出したのだが何故か空中電車のホームで転落したのだった。
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