生き延びるための条件

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「……俺、空電に轢かれて、助かったのか?」 「正確にいうと我々が助けてやった、だな。」 「………ありがとうございます。」 何故か上から目線な態度に慧は不快感を覚えた。だが何はともあれ助かったのだ。この男が何の目的で自分を助けたのかは分からないが、助けて貰えたこと自体には感謝しようと思った。だが、そんな考えもシャープトンの言葉で掻き消される。 「いやいや、感謝などしなくて良い。その代わり我々のモルモットになって貰うのだから。」 まるで娘の結婚式が始まる直前の父親みたいな、爽やかさと感動を足した笑顔を浮かべ、シャープトンはそう言った。唐突な発言に驚いた慧は何も言えない。 「失礼します。」 慧が固まっていると喪服のような黒いスーツを纏った青年が入室する。彼は金髪で青い瞳を持ち、とても綺麗な顔立ちだった。だがその表情は冷徹だ。氷そのもののような目線で、青年は慧を見詰めた。 「はじめまして。これから行う実験の説明及びトラブル対処を役割としておりますシザーと申します。宜しくお願い致します。」 シザーは丁寧にお辞儀をした。西洋人にしては流暢な日本語を話し、仕種も日本人(この時代で“日本”という固有名詞はもう死語に近いのだが)のように優雅なものだ。そのギャップに驚いた慧は、硬直を解き、慌てて挨拶をする。 「よ、宜しく。」 「………なるほど、素晴らしく強い脳をお持ちですね。あれほど、」 そこまで言うとシザーは口を閉ざした。そして明るい声で話を続ける。 「では、あなたの脳が元気なうちに説明しておきます。その肉体は私たちが開発した“人体型ボディ”です。貴方は空中電車事故によりバラバラになり死亡しました。ですが脳に損傷がなかったため、我々があなたの肉体を、正確には頭部ですね…それを買い取り、ボディに繋げたのです。」 湯水のように溢れシザーの言葉に慧は再び硬直した。 一回俺は死んだのか? それも、そんな俺の体を買い取った?
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