空気部「ワープロ部」

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季節は春。 冬の厳しい寒さもようやく終わりを迎え、桜の花が徐々にその存在感を増す今は、校内は進級という俺たち生徒にとっての年に一度の一大イベントを迎えたばかり。 これからまだまだたくさんの行事を控えていて、校内はまだ暫くその賑わいを失うことは無さそうな、初々しさを思わせる季節である。 しかし。 どこもかしこもポジティブハイテンションまっしぐら!というわけにもいかない。 誰の目にもとまることなくひっそりと憂鬱な気分で登校する男が、ここに一人いた。 「はあ、今日も学校についちまったか」 月が平商工高等学校(つきがひらしょうこうこうとうがっこう)、二年生。 山崎 亮(やまざき りょう)、16歳。 そう、俺だ。 今年から二年生に進級となる俺は、おそらくこの中の誰もが想像もできないような、どうしようもない悩みを現在進行形で抱えているのだった。 この問題が俺の頭を悩ませ続けてもはや半年以上が経過したが、未だそれはまるで解決の兆しを見せていないのである。 悩み始めてから何ひとつとして変化してない。牛歩どころではない、足踏みか...いや、足をもがれて動くこともできないのか。下手したら後進しているかも。 その悩みの正体はずばり、俺の所属している部活動でなのである。 俺は一年生の入学した直後の頃からこの学校でも指折りの強豪部と言われている、「ワープロ部」という部に所属をしている。 いや…違うな。 正確には、強豪部と言われて「いた」と言ったほうが正しいか。 何故かと言うと、ワープロ部が強かったのは二年前までのことだからである。 今あの部は、かつての面影は一切なく、校内のほぼすべての人間から存在そのものを忘れられた「空気部」と化していた。化してしまったのだ。 その現状を作り出してしまった原因は、俺の先輩たち。 そして、そのまま何もしなかった俺にも原因がある。 当時一年生だった時の俺は、ワープロ部の素晴らしい評判を耳にして真っ先に入部しようと飛びついたのだが、いざ入部してみるとそのワープロ部の内情たるや、素人目に見ても余りある酷さであった。 当時のワープロ部には二年生が一人もおらず、俺の先輩にあたるのは三先生の女子の先輩が6~7名。 俺はその先輩たちはさぞかし偉大な人なのだろうと考えていたのだが、いざ箱を開けてみると完全に真逆で、二つ歳が下の俺から見てもわかるくらいには彼女らはどうしようもない人たちだったのだ。 俺が部室へ行っても先輩たちは全く練習をしようとする様子はなく、ただただ机に菓子やらジュースやらをおみせ広げし、仲間内でだべって時間を潰すだけ。 そう、ワープロ部が強かったのは俺の先輩の、さらにひとつ上の先輩の代までで、今ここに残された部員たちは、強豪の「き」の字もないくらいのクソザコ集団だったのだ!
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