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「大変だったな、色々と・・・」
伯父さんの車に乗せてもらい家へと向かう途中、伯父さんがそっと口を開いた。
「はい・・・」
「・・・実は、俺は知ってたんだ。茜さんが、M市にいたって事は。
まさか、あんな事をしていたとは知らなかったけど」
「そう、だったんですか・・・」
「ただ、お前には東北の工場にいるって言っておいた方がいいと思ったんだ。
お前が茜さんの帰りをずっと待っていた事は知っていたし。
そんな近くに住んでいるのに娘の元へ帰ろうともしない母親だなんて知ったら、お前が傷付くと思って。・・・御免な、ずっと隠してて」
「大丈夫ですよ、伯父さんが気を使ってくれてたのが解らない程、ボクもう子供じゃないですから」
そう言って笑って見せると、伯父さんも安心したのか少し口元が緩んだ。
「ところで・・・茜さんから何か言われなかったか?その・・・お前の父さんが・・・どうって・・・」
「っ!」
ドクン・・・
その話がでた途端、また心臓が妙に高鳴りだす。
「いえ・・・、何も・・・言われませんでした」
「そうか・・・。いや、何も無ければそれでいいんだ。気にしないでくれ」
ハンドルを強く握り締め、伯父さんは前を見たまま短く返事をした。
それから家に着くまでの間、伯父さんは極力明るい話題をボクに話してくれた。
さっきの話題を忘れさせるかのように。
叔父さんに聞けば真実が解る筈なのに・・・、何故か聞けなかった。
ただ高まった鼓動が気持ち悪くて、早く落ち着くのを祈るばかりだった。
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