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東京へは、誰にも告げずに行く事に決めた。
言ったら止められるのは解っていたから。
敢えて何も考えないようにしながら、身の回りの整理に集中して残りの日々を過ごす。
そして、いよいよボクの上京の日である修了式当日を迎えた。
「さ・・・、彩!?」
教室に入ると、優菜が驚いた顔でボクを見た。
あの事件があってから、学校に一度も来ていなかったから、優菜に逢うのも久しぶり。
「おはよう、優菜」
笑って声をかけると、優菜は安心したのか、少し強張ってた顔が一気にほぐれた。
「馬鹿!まったく連絡もよこさないで!・・・心配したんだから」
「ゴメン」
優菜以外のクラスメートは、誰1人とボクに声をかけようとはしない。
そんな事は解りきっていた事だったから、こっちに向けて来る妙な視線も別に気にならなかった。
順調に終業式が進み、最後のHRが終わる。
「彩!帰ろうよ!」
荷物をまとめていると、後ろから優菜が声をかけてきた。
今月の頭に弘樹が卒業したから、気兼ね無く一緒に帰れる。
もっとも、今日は弘樹に頼み込んででも優菜と一緒に帰る気でいたけど。
「ねぇ、優菜。せっかく明日から春休みだし、少し遊んでから帰ろうか!」
鞄を背負い、優菜に笑いかける。
「え、いいけど・・・、大丈夫なの?」
「ん~?今ねぇ。瑛哉達、里帰り中なんだ」
優菜の『大丈夫?』の意味がそういう意味じゃないのは解っていたけど、あえてそう答えた。
「あ・・・、そ、そうなんだ?皆がいないと彩、寂しいでしょ?」
「うん。でもまぁ、すぐに逢えるから。・・・さて、何処行く?」
「ん~。じゃあ、とりあえず駅ビルにでも行こうか!」
学校を出て、駅の方向を指差す優菜。
「OK。あ、ちょっと待っててね・・・」
すぐ近くに立っていたポストに近づき、鞄からそっと封筒を取り出す。
昨夜用意した退学届・・・。
「何出すの?」
「懸賞!さぁ、行くよ!!」
急に覗き込んできた優菜に宛先を見られないよう、急いでポストに押し込んで、肩を押しながら駅へ向かって歩き出した。
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