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「う~ん、楽しかった!!やっぱ彩は歌上手いなぁ!!」
帰りの電車の中で、優菜は機嫌良さそうにはしゃいでいる。
「うん、久々に唄ったらちょっと楽しかった」
少し決まりが悪く、頬を指で掻いた。
あんな大声で唄ったのは久々だったような気がする。
結構・・・スッキリするもんなんだな。
「じゃあ、たまには唄ってよ!本当、たまにでいいからさ!」
「気が向いたらね」
優菜の隣に並んで、夕暮れに染まる景色を眺めながら答える。
「あ~あ、それにしても・・・、もう3年生かぁ。高校生活って早いね」
「そんなもんでしょ」
「3年も・・・、同じクラスになれるといいね!」
「・・・うん」
楽し気に話す優菜の顔を・・・見る事が出来なかった。
ボクの高校生活は、今日終わったなんてとても伝えられなくて。
「優菜!」
電車を降りると、駅前の時計塔で弘樹が手を振っているのが見えた。
「あ!弘樹~!!」
「行ってあげな。ボクとのデートは終わり」
「うん!今日はありがとね、彩!楽しかったよ!」
「あ・・・、優菜!」
「ん?」
弘樹の所に向かいかけた優菜を呼び止めると、優菜の腕を掴んで思いっきり抱きしめた。
「わっ!ど、どうしたの!?」
「・・・春休み中、しばらく逢えなくなるから。優菜が寂しくならないように、おまじない」
「や、やだ!春休みなんてすぐに終わっちゃうでしょ!」
「そうだね」
慌てて言う優菜に、笑って返す。
「ねぇ、彩・・・」
「ほら!弘樹が待ちくたびれてるよ、行きな。早くしないとボクが弘樹に文句言われちゃうんだから」
何か言いたげな優菜の言葉を遮り、時計塔を指差した。
「あ、うん。・・・またね!彩!」
優菜は手を振りながら、弘樹の元へと走って行った。
「ごめん・・・、優菜」
ボクの一番の親友、優菜。
いつも一緒にいたよね、卒業式も一緒に迎えられたら良かったんだけど・・・。
弘樹の元へ無事に付いた優菜を見届け、そのまままっすぐ商店街へ向かった。
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