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「それよりも、お前があんなに楽しそうにしてる姿が悔しかったんだ。ライブでも、スタジオでも、ノアにいた頃はそんな素振りすら見せた事なかったのによ。
あれだけの才能があれば、歌う事に不満は無い筈だって、勝手に思い込んでた」
「・・・ボクには、何年もかけて積み重ねた努力の方が誇らしかった。それだけだよ」
自分のカップの紅茶を飲み干して誠の顔をまっすぐ見つめる。
「いつまでもボクの残像なんかに囚われてないで、早く新しいボーカル見つけな。ノアの復活を待ってる子がどれだけいると思う?
別にノアの人気はボク一人だけの物じゃなかったんだから」
それを聞くと、誠は無言で苦笑いを浮かべた。
「思えば、お前とこんな風に喋ったこと自体が無かったな」
「あんたが聞く耳持たなかったからね」
「・・・悪かったよ」
「もういいよ」
とんがった返事を返したけど、顔は思わず笑ってしまってた。
長い喧嘩が今終わったような、そんな気がして。
「彩!」
白百合を出てマスターの元へ向かおうとした時、誠が後ろから大声で呼んだ。
「俺は諦めないぞ!最高のボーカルを見つけて、いつかお前達を越えてやるからなっ!」
こんな商店街のド真ん中で・・・。
いつからそんな熱血男になったんだか。
でも、そういうの嫌いじゃないよ。
「じゃあ、今より少し高い所で待っててあげるよ」
それだけ言って、誠と別れた。
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