始まりを告げる出来事

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今日二度目の溜め息を吐き、汗でベタベタになった洋服を着替えるためゆっくりと立ち上がり、部屋の隅にあるクローゼットへと足を運ぶ。 新しい学生服を取り出したい所だが、ここにはない。 昨日、義母さんがこの部屋に乗り込んできて『ここに置いていたらシワになるわ! そうだ! 今日1日一階の居間に置いておきましょう! そうよ、それがいいわ』と無理矢理居間へと持っていってしまった。 「お風呂の後に来るんだもん……対処のしようがないよ……」 普段は鍵をかけているのだが、お風呂から帰ってきた所を狙われては手も足も出ない。 扉を開けた瞬間、持ち前の瞬発力をここぞとばかりに発揮し侵入してきた。 まありにも早すぎて、目で捕らえることができなかったし…… 「本当……謎な人だよな……」 「それほどでも~」 「いや、誉めてないよ」 「えーっ!? ぶぅ~……奏ちゃん、ママを誉めてよー」 「いやいや、無理で、しょ……?」 気のせいだろうか、今ここに居る筈もない義母さんの声が聞こえたような…… 「気のせいじゃないわよー」 「うわぁっ!!?」 現実逃避しようとした瞬間、誰かが後ろから覆い被さるように抱き付いてきた。 いや、誰かなんて分かりきっている筈で、ただそれを認めたくないだけ。 「あ、あ、あ──」 「愛してる?」 「断じて違いますっ!!! 杏樹さんっ!? いつからそこに!? 鍵を閉めていたはずですよ!?」 顔だけ後ろを向いてみると、そこに居たのは紛れもない、さっきまでしていた鬼ごっこの鬼役……義母さんこと、『深那木 杏樹(ミナギ アンジュ)』本人が居た。 「いつから? う~ん……奏ちゃんがクローゼットに向かうちょっと前からかなぁ~」
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