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先ずは誰なのか確認することが先決だろう。同じ男子なら、何とか言い込める自信はあるが、女子だとそうはいかない。
いきなり顔を見るのは怖いので、横目でちらっと隣を見てみる。
見えたのは、淡く薄い緑色のブレザーに真っ白なネクタイ。
「ふぅ……男子か」
それも同じ一年なら話しは早い。手っ取り早仲良くなってしまえばこっちのものだ。
「いったい誰だ? こんな場所で寝てるのは……」
いくら春とはいえまだ肌寒い。こんな場所で寝ていると風邪を拗らせてしまうかもしれないので、仕方なく起こそうと、今度は横目じゃなく顔事横を向けた。
「……なっ」
倒れている男子を見て、言葉を無くしてしまった。
幼い顔立ちに肩まである茶色い髪……そして、一般の高校一年生の平均身長よりも遥かに小さい華奢な体格で、下手をしたら女の子に見える男の子……
「なっ、なんで……」
信じたくない姿が、目の前に横たわっている。
「なっ、なんで……っ!? 僕が目の前に居るっ!?」
そこに横たわっているのは、十六年間見てきた紛れもない僕自身だった。
何故、こんなことになったのだろう?
それは神様の気まぐれか、悪魔の悪戯か……はたまた誰かの陰謀か、それは分からない。
ただ言えるのは、この世は不思議なことに満ちていて、たまたま、それが僕達に降り掛かってきた。
ただそれだけのことなのに……たったそれだけで、僕の世界は180゜変わった。
『男の子』としてのではなく、『女の子』としての世界が、この日、この場所で始まってしまった。
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