#03

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…━小学5年、11歳の暑い夏の日。 『ねぇ、今日三人でお祭り行かない?』 侑莉が俺と拓海君に言った。 これは毎年恒例のことで 俺達は三人揃って近所の小さなお祭りに出向いている。 拓海君は即OKって返事をしいたが、俺は人込みが苦手だったので 今年は断ろうと思っていた。 でも侑莉と拓海君が二人っきりで行くということに なんだか気が引けて 『…俺も行く。』 気付いたらそう口にしていた。 それから侑莉は 水色の浴衣に淡い黄色の帯を締め、可愛らしい生花を頭に飾りつけ 俺達に『似合う?』と言ってきた。 この俺が素直に『似合うよ。』なんて言える訳もなく、その言葉は拓海君が彼女に言っていた。 そんな拓海君の言葉に顔を赤くし、はにかんだ笑顔見せる彼女をただただ横から眺めることしか出来なかった。 彼のこうゆう素直な気持ちを言葉に出来るところがいつも羨ましく思う。俺には絶対できないことだから…。 でも 何でかこの日だけは 『可愛いじゃん。』 そう素直に言っていた。 俺がそんな言葉を言うなんて思ってもいなかったのだろう。 侑莉は『いまの陸が言ったの?』と言わんばかりの顔でこちらを見ていた。 でもすぐにその表情は柔らかくなり 『ありがとう。』と、頬を赤く染め 先程のはにかんだ笑顔を俺にも見せてくれた。 いつものように、侑莉を真ん中にして三人で屋台巡り。 途中、綿菓子を買い 嬉しそうに食べる侑莉。 『いる?』と、首を傾げ 少しちぎってからそれを俺にくれた。 その綿菓子が甘くておいしかったのは、今でもしっかり覚えてる。 この時から 俺の胸の鼓動は、急速に加速し始めたんだ。 .
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