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朝起きたら、父が炭坑の側で倒れていた。
父の近くには、柄の折れたピッケルと、狼のような生き物の死骸が転がっていた。
僕は最初、狼が怖くて父のそばに行けなかった。
「もしかしたら、まだ生きてるんじゃないだろうか。」
そう考えると、怖くて近寄れなかった。
狼の額に埋まり込んだ透明な宝石が、恐怖をより一層駆り立てた。
10分くらい経っただろうか。
狼には未だ反応がなく、はた目には死んでいるように見えた。
とりあえず、僕は父の安否を調べることにした。
父の元に駆け寄り、しゃがみこむと、父の体を揺さぶった。
だが、反応はない。
目は開いたままで、どこか遠くを見ているようだった。
呼吸は規則正しく、一応生きてはいるらしい。
12歳の僕には人を担げるような力はなかったので、父に左肩を貸すと、引きずりながら歩き出した。
その時、僕は父を引きずるのに精一杯で忘れていた。
狼のことを。
僕は狼の生死を確認していなかった。
ハッと思い出し、振り返った時には遅かった。
飛びかかってきた狼は、僕の右肩に噛みついた。
僕は悲鳴をこらえて、右腕を振り回した。狼の腹に拳が当たったらしく、狼はうめき声を上げて地面に落ちた。
そしてすぐに起き上がると、駆け出して、森の中に姿を消した。
僕は左で父を支えながら、狼に噛まれた右肩を見た。
目を疑った。
さっき確かに噛まれたし、痛みもあった。
けれど、傷はついていなかった。血も流れていない。
そんな中、ポツポツと雨が降りだした。
僕は何が何だかわからなくなっていたけれど、とにかく家に帰ることにした。
雨に追われるように駆け出した僕は、自分と父に何が起こったのか、まだ理解出来ていなかった。
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