プロローグ

2/2
前へ
/7ページ
次へ
朝起きたら、父が炭坑の側で倒れていた。 父の近くには、柄の折れたピッケルと、狼のような生き物の死骸が転がっていた。 僕は最初、狼が怖くて父のそばに行けなかった。 「もしかしたら、まだ生きてるんじゃないだろうか。」 そう考えると、怖くて近寄れなかった。 狼の額に埋まり込んだ透明な宝石が、恐怖をより一層駆り立てた。 10分くらい経っただろうか。 狼には未だ反応がなく、はた目には死んでいるように見えた。 とりあえず、僕は父の安否を調べることにした。 父の元に駆け寄り、しゃがみこむと、父の体を揺さぶった。 だが、反応はない。 目は開いたままで、どこか遠くを見ているようだった。 呼吸は規則正しく、一応生きてはいるらしい。 12歳の僕には人を担げるような力はなかったので、父に左肩を貸すと、引きずりながら歩き出した。 その時、僕は父を引きずるのに精一杯で忘れていた。 狼のことを。 僕は狼の生死を確認していなかった。 ハッと思い出し、振り返った時には遅かった。 飛びかかってきた狼は、僕の右肩に噛みついた。 僕は悲鳴をこらえて、右腕を振り回した。狼の腹に拳が当たったらしく、狼はうめき声を上げて地面に落ちた。 そしてすぐに起き上がると、駆け出して、森の中に姿を消した。 僕は左で父を支えながら、狼に噛まれた右肩を見た。 目を疑った。 さっき確かに噛まれたし、痛みもあった。 けれど、傷はついていなかった。血も流れていない。 そんな中、ポツポツと雨が降りだした。 僕は何が何だかわからなくなっていたけれど、とにかく家に帰ることにした。 雨に追われるように駆け出した僕は、自分と父に何が起こったのか、まだ理解出来ていなかった。        
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加