🍸ちょっと酔い話🍸

バーボン

あの女(ひと)の瞳は
黒く…澄んでいた
｢今夜は酔ったわ｣
彼女が言った
初めて会う女と飲る(やる)酒も美味いが
古い女友達と過ごす酒も
なかなか捨てたもんじゃない
少し酔った僕は
カウンターのへりにもたれ
人のいる方を眺めていた
｢おいおい冗談だろ
あんたから
酒を取り上げたら
ただの女になっちまう｣
振り向きざまにそう言って
僕は残りの酒(バーボン)を
ストレートで半分ほど開けた
｢随分ね
相変わらず口は悪いけど
あなた馬鹿みたいに
いつも優しかったわ ｣
ジャック･ダニエルは
夜に飲む酒(バーボン)だ
暗い夜空を
まばゆいばかりに
またたく星のように
心を溶かし
心を酔わす酒(もの)は
黒い服(ベール)に包まれて
注(つ)がれたグラスのふちに
小さく光を落としていった
｢馬鹿だけは余分だけ ど…
あんたこそ
相変わらず綺麗さ
男がほっとけないので
苦労したのか
少し痩せたみたいだけど｣
グラスをかたむける
彼女の横顔に僕が言った
満たされない夜に
お酒で心を満たそうとしたって
無駄なあがきだ
…という以前(まえ)に
彼女はグラスをあけてしまった