カンパリソーダ

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そのあと彼女の酒を少しだけ盗んだ。 それも強引な性格の一部だと思ったので 一口飲んでから 美味しいとお世辞を言うのは忘れなかった。 「うふふ そうね。確かにあなたのように 突然バカなこと言ったりしないわ」 笑いが終わらないうちに彼女が言った。 「僕のも飲んでみなよ。さっぱりしてるだろ。まるで僕みたいに…君の彼氏だったら きっとこんな時は真面目な顔で 君にせまるんだぜ」 言ってしまった後に ちょっと意地悪なセリフだったかと後悔するのが いつもの僕の悪い癖なのだ。 そして 彼女の次の言葉を待つ時間が随分長く感じた。 だからそんな場合 自分から謝る。 「御免…でも僕ならきっと 笑って口説く」 その夜 不幸だったのは 傘が2本だったこと。 もしどちらかが傘を忘れていたなら その夜のふたりは いまと違う二人に変わっていたのかもしれない。 あれは夢だったのだろうか。 窓ぎわのテーブルにボトルとグラスを並べて 今夜も雨の音を聞いていた。 赤い酒の注がれた 背の高いグラスを指でつまんで 僕はまた にっこりと笑ってみせた。 カチンと音をたてて ボトルにグラスを当てた。 小さく光る泡の向こうに 彼女の面影が溶けて消えていった。
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