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チンザノ
にぎやかな繁華街から少しばかりはずれた場所に その店は今も薄汚れた営業中の札を立てかけている。あの頃の面影もそのまま 暗い店内にはジャズが流れ ろうそくの炎が赤く いくつかのテーブルの上で揺れていた。あの夜 マスターは僕達のために特大のピザを焼いてくれた。その上にタバスコをたっぷりとかけて食べる。口のなかいっぱいに涙がでるほどの辛さがひろがる。だからといってそんな時 へたに水なんかを飲めば なおさらに辛い。
チンザノというイタリアのワインをひとくち飲んでみる。それが胃のあたりまで落ちる頃には 不思議に辛さも消える。チンザノは強い酒(ワイン)だが ピザには白(ドライ)がよくにあう。
まだ恋という言葉の意味さえ知らなかった頃のとおい記憶の端に長い夜があった。丸いテーブルを囲んで いつものアンチョビーピザと真ん中にチンザノドライを置いて 僕たちはそろそろ酔いはじめの顔をしていた。この彼女はとても豊かな笑顔を見せてくれる。心も体も とても大きな女だ。その隣でもくもくと酒を呑む大きな男は僕と同歳の幼なじみ。彼女は僕たちより3歳年上でしかも美人ではない。その彼女のおごりで その夜のお酒を飲みはじめた。
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