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「あなたはいつもそんな顔で お酒を飲むのね」
そう言って彼女は笑った。そう言われて僕はなおさら不機嫌な顔を作ってみせた。
「心外だね。そんな言い方ってあるかい」
僕の返事に彼女は目を細めてまたおもいっきり笑った。大きな体が左右に動くたびに手にしたグラスを揺らし テーブルとボトルと そしてチンザノが踊った。その夜 僕は地球を抱いて眠った。
それからしばらくして僕には恋人ができてが彼女にあうこともなかった。どんな出会いにも終わりがある。その恋人と別れるまぎわ 彼女をいちど訪ねた記憶がある。
「想い出に酔えるなんて 若い証拠だよ」
そんな彼女の文句(セリフ)は 10年たった後でも僕なんかには言えやしない。
長い夜があった。あの頃 机の引き出しにいれたままの 恋人へ送る別れの手紙をみつけた。忘れられぬ想い。残り少ないグラスの酒(ワイン)の中に二人ならんで 大きな体を左右に揺らし 彼女が馬鹿だなあと笑って消えた。手紙の最後の一枚を僕は何度も繰り返し読んだ。
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