フォーローゼズ

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フォーローゼズ

彼女は仕事のまえに必ず 同じビルの店(パブ)に寄るのを日課にしている。 ドアをあけると またドア。 カウンターの右から3席目が彼女の指定席。 「おはよ」 「あぁ うん」 朝でもないのに いつでも同じあいさつ。 タバコとライターが バックからカウンターに並ぶころにはもう グラスに彼女特製のカクテルが出来上がっている。 「モスコミュールの変形だね。最初はびっくりしたよ」 「クラッシュアイスに酒(バーボン) ライムを少し そしてジンジャーで割ると 特製カクテルなの」 「あの時は そんなに優しい言い方じゃなかったよ」 この店にくるようになって どのくらいたったろう。 気を使わなくてもいい。 顔色をみて話をしてくれる。カウンターの中には優しくてあったかい かお かお かお。 傷だらけになってもここへくると彼女はいい顔をしている。 僕は面白くない顔。 同じ時間をすごしているはずなのに 僕はまるで置物。 でも彼女の顔を見ていると何も言えない。 僕の特製カクテルは 彼女の笑顔が映る酒(バーボン)なのだから…
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