ロンリコ

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ロンリコ

小さなグラスに 丸く削ったアイスをひとつ入れたそれは 口に含んだ時の甘さとは 想像もつかない様な熱さで 喉を焼いていく。 78度もあるそれは 思い通りにならない女を手懐けるみたいな楽しさを与えてくれる。 あの頃… 先輩の彼女と 三人で飲む事が多かった。 彼女はよく笑い よく食べ そして よく飲んだ。 楽しい時間があれば 別れは寂しい。まして先輩の彼女となら 切ない想いだけがつのる。 その彼女に電話で呼び出され いつものカウンター席ではなく 店の奥にある 薄暗いボックス席に向き合って座った。 しばらく黙ったままの彼女が小さく言った。 「私たち…もうダメみたい」 「えっ」 「他の女(ひと)がいるらしいの」 そういえば 最近 一緒に飲んでない。 先輩とは大学卒業以来 会社が違うせいもあって なかなか会う機会もなかった。 僕は彼女に何を言えばいいのかわからず ただ黙ってグラスをかさねた。 彼女も ただ黙って 飲み続けている。 二人でボトルを空ける頃には 彼女の心も からっぽになっていた。 そして僕の心も… 久しぶりに彼女から電話があり あの店で待ち合わせる約束をした。
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