ソルティドック

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ソルティドック

暗い路地の突き当たり よく見ないと気付かない 古い木のドアが ぎい と音をたてて開くと カウンターだけの小さい店が… L字のカウンター 奥に3つと 手前に5つ とまり木が常連客を待っている 今日も彼がいた 手前のとまり木の 奥から2つめ ショートピースの紫色の煙をくゆらせて ウォッカのロックを呑んでいる 彼がグラスをかたむけると マスターが塊から一杯分づつ削ってくれるアイスがふたつ からん と鳴る 彼をみつめるにはちょうどいい 一番奥の壁ぎわが 私のお気に入り 黙っていても コースターの上に ソルティドックがおかれ ドリップしたあとのコーヒーを乾燥させた粉がひかれた灰皿がならぶ ぎいと音をたてて ドアが開いた 「なんか 暗いみせ」 「せまいなぁ でも お前をくどくには ちょうどいいかもな」 「やぁね 静かすぎるわ」 ここにあるのは 音量を絞った ニニロッソのトランペットと マスターのふる シェイカーの音 そして時おり からん と鳴くアイスの音だけ… 「俺はビール」 「私は モスコ」 しばらくは賑やかな時間が続くだろう この店には似合わない 招かざる客 矯声をあげる二人を マスターと彼が一瞥する
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