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「ええ?」五十嵐はひどく弱々しい声を出した。
しかし、一つ咳ばらいして言葉をそえた。
「夏だ。すまない、失礼する」
彼は力強く言って、電話を切った。
「なにやってんの」
呆れたふうに眉をかいて彼女をぼんやりと見た。
「仕事の電話だったら、キレるよ」
その言葉と反対に、彼の準備が整っているので、三夜子はわざとらしく首を傾げた。
「うん?」
五十嵐は眼鏡の下から指を入れて、ため息をもらしながら、あきれきったようすで目頭をつまんだ。
「Have you finished packing?(荷造りは終わったの)」
心底あきれ果てたときは英語のほうが伝わると考えたらしい。五十嵐は両手をだらりと下ろし、脚のあいだの彼女に聞いた。
三夜子は眉をひそめ、彼に身をのりだした。
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