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どうやらお祭りがあるようなので、ふらりと外出した。
僕はお祭り好きである。が、またお祭りが嫌いでもある。テレビで中継されるような、どんちゃんしたお祭りは嫌いだ。僕がお祭りに求めるのは、あの何とも言えないノスタルジイである。セピア色に橙を混ぜて暈かした水彩画のような、普段誰も寄らない神社がその日だけにわかに色付くような、そんなお祭りが好きなのだ。
そういうお祭りがありそうだ、というだけの理由で大学を選んで受かって越して来たのだ。
◆
アパートを出て十分程歩くと、「××町夏祭り」と書かれたのぼりが道端でひらめいていた。その先からの道はもう、お祭りだった。
小学校から借りて来たのだろう、××小学校と印字されたテントの中で、いかにも気の良さそうなおじさんが、肉の少ない焼き鳥を笑顔で焼いては並べている。
誰かが提供したらしい子供用プールには水が張られ、手作り感溢れる色とりどりのヨーヨーがぷりぷりと可愛らしくひしめいて、半ズボンの小学生が小遣いを握り締めて笑い合う。
食い物は焼き鳥を除けば、これまた気の良さそうなおばさん達が茹でる素うどんしか見当たらない。
客もまばらでお囃子も無い、お祭りにしては小さくて静かな空間。
そこに広がっているのは、まさに僕が求めるお祭りだった。軽い興奮に顔がにやけるのを抑えつつ、予感が的中したのを確信し、僕は感激に震えた。
時折吹き抜ける、ぬるい風すら心地よい。上機嫌に焼き鳥を買うと、不味くはないがけして旨くもなかった。完璧である。お祭りの食べ物は、そんな微妙な味であるべきだ。飢えた雛鳥の如く焼き鳥を消費し、次に買った素うどんもまた微妙な、かつ絶妙な味であった。
嗚呼、なんて素晴らしい!
発砲スチロールの器を左手に、少々伸びたうどんを堪能していると、「お兄さん、お兄さん」と声がした。周りを見ても「お兄さん」に該当するのは僕だけのようだったから、「僕ですか」と確認すると「そうだよ、お兄さん」と返ってきた。
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