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タィリがひらつかせた物体に、ユーリは愕然とする。何時の間にか、上着から抜き出された黒い板を、タィリは懐に入れて満面に笑みを浮かべたのだ。
「講師っ。そりゃあないよ」
「ラグスの希望は叶えたわけだ。報酬だと思えば良いだろ」
情けない声で、ラグスが言えば、悪びれる気配もなくタィリは言い切って、式紙の猫を跡形も無く消してしまう。
「ルイが怒るって」
「そうだな。ルイに伝えとけ。逃げるだけなら、こっちも邪魔するだけだからってな」
「なあに言うんですかっ。俺は、死にますよ。可愛い生徒を見殺す気ですかあ?」
ユーリは、ラグスの方へと押された。二人の会話はまるで雲を掴む様なものだが、一応、耳は傾ける。
「見殺す気はないだろ。寧ろ、囮になると言うんだ。少しは感謝しろ?」
タィリがそれだけ言い放ち、指を弾くと短い詞を唱えた。その瞬間に、ユーリから見て右側の壁に穴が空く。ユーリは、その壮大な爆発に、言葉を失っていた。壊すことに意味を問う必要がある。ふつうはそうなのだが、タィリは、明らかに破壊行為を日常として捉えていると直感する。
ユーリとラグスが慌てる間に、タィリは穴から走り出してしまう。止める余裕など在りはしない。
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