夢で逢えたら

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       ――夏休み、それは全国共通の、一年のうちで最も楽しみにされている長期休暇ではなかろうか。    少なくとも、うちの学校のみんなはそうだった。最後の授業が終わった瞬間に奇声を上げたり走って教室をでたり、成績表を紙ヒコーキにして飛ばしたり(これはさすがに怒られていた)、とにかく皆は大はしゃぎだった。  どうやったらそこまでハイになれる夏休みを過ごせるのだろうか。少なくとも、夏休みの大半を緑に囲まれた山の上で、一日中モーと鳴く牛たちと過ごす人なら、そこまでハイにはなれないだろう。  僕は今、一日中モーと鳴く牛たちに会うべく、帰省ラッシュに巻き込まれた車の中で、夏休み明けまで別れることになるであろう携帯電話の電波にお別れを告げていた。 「あとどれくらいで着くの?」  どうやら僕の携帯電話は電波より先に電池とお別れする方が早かったみたいだ。 「車進まないからねぇ、もうすぐしたら山道に入るとこに曲がるから、そこまで行ったらすぐよ」  僕の携帯電話のディスプレイは真っ暗な画面になり、白い文字で“see you”と出ていた。    違うよ、そこは“see you”じゃなくて、“so long”だよ。      僕が今から向かう所、それはなんとか山っていう所にあるお爺ちゃんの牧場。そこは蝉の鳴き声の代わりに牛がモーと鳴く、情緒あふれる所だ。  お父さんとお母さんが夏休みの間家にいないから、お爺ちゃんが面倒みてくれる。お父さんもお母さんも、サービス業はつらいとぼやいてた。僕は両親の言い訳を素直に聞いていた。
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