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「わぁ」
店に入ると、由衣は思わず感嘆の声をあげた。
店の中は所狭しと物が陳列されており、その雑多具合は海外の雑貨店を思い起こさせる。
ただ違うのは、陳列されているそれらは色とりどりの光を帯びており、とても幻想的だったことだ。
入り口のすぐ横のテーブルには円柱のガラスがあり、中の液体が青から赤、緑から橙へとグラデーションを伴って色が変化している。
店の外で感じていた匂いは店の中に入れば五感を見失うほどに強烈に漂ってきていた。
甘く、それでいて爽やかな香り。アルプスの山の上にいるような、有名なパティシエがいる厨房の中のような、様々な花々が咲き乱れる花畑の中にいるような……いずれも由衣は経験したことがない匂いだが、もしその場所へ行けばきっとそう思うだろう。
しばらく入り口で茫然としていた由衣は、誘われるように店の中に一歩二歩と足を進めていった。
天井に届きそうなほどに高い棚の間を潜る。陳列されている物は赤や緑に輝く液体が入った小さなガラス瓶などなど。
「なんだろ、これ……」
その中で由衣は手の平に収まるぐらいの小さな瓶を手に取ってみた。小さな丸フラスコの形をしたその中には、淡い光を帯びた赤色の液体が入っている。コルクで蓋をされており、残念ながらその匂いを嗅ぐことはできなそうだ。
「――いらっしゃい」
突然店の奥から声が上がって、由衣はこれ以上ないほどに肩をビクッと震わせた。手に持っていたガラス瓶を落とさなくて良かったと、由衣は思った。
「あっ……す、すいません!」
別に悪いことは何もしていないのに、何故か悪戯が見つかった子供のような心境になった由衣は慌ててガラス瓶を棚に戻した。
底はまん丸いというのに、中に液体があるせいかガラス瓶は倒れることなくその場にすくっと立った。
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