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「無理無理。だいたいあんたさ、理想が高すぎるのよ。例えばさ、ほら」
ジッコは教室内にいた、ちょっとぽっちゃりしているけど第一印象は“優しそう”な男子に箸を向けた。
「岸部君は?」
「デブ」
憐れ岸辺。由衣の即答に、ジッコは表情も変えずに別に男子に箸を向ける。
「山下君は?」
「マッチョすぎ」
「渡辺君は?」
「メガネのセンスが悪い」
「篠塚くん」
「カッコいいけど性格悪そう」
「あんたね――」
次々と玉砕される男子が哀れに思ってきたのか、ジッコは最後に箸を由衣に向けて、
「どんだけ理想が高いのよ。恋愛には妥協も必要なの」
と言って少し多めにご飯を口に含んだ。対する由衣は口を尖らせて、
「駄目よ、諦めたら試合はそこで終了なのよ!」
「あんたはどこのバスケットチームの監督なのよ。もういいわ、あんたと話してると私の理想像まで狂いそうだから」
溜め息をつくジッコに、由衣は物言いたげに頬を膨らませるが、反論する言葉が出なかったようで溜め息をつくと同時に膨らんだ頬はしぼんでいった。
「――そうそう、今日ちょっと部活前に自主練したいからさ、由衣手伝ってよ」
空になった弁当箱を鞄の中に片付けながらジッコが言う。だが由衣は渋い顔をして、
「あ、ごめん。今日私部活を休みたいからさ、悪いけど部長に言っておいてくれない?」
両手を前で合わせながらさも申し訳なさそうにいう由衣の言葉に、ジッコはきょとんとしていた。
「あんた、まだチョコレート買ってないの?」
「えっ、何でわかったの!?」
心底驚いている由衣に、ジッコは呆れた溜め息をつく。
「長い付き合いなんだから、それくらいわかるわよ。夏休みの宿題と同じ扱いされるなんて、バレンタインも可哀想ね」
ジッコは頬杖をついて意地の悪い笑みを浮かべる。
対する由衣は空になった弁当箱を包むハンカチをキュッと結びながら、口をへの字に曲げていた。
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