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「別に、今まで放っておいたわけじゃないもん。どんなのにしようかなってずっと考えてて、気がついたら今日だったってだけよ」
ジッコは物言いたげに薄ら笑いを浮かべるが、何を言っても無駄だと察したのか口を閉じたままだった。
「わかったわよ。それで、休む理由は?」
「おばあちゃんのお葬式って言っておいて」
縁起でもないことを言ってのける。ちなみに由衣の祖母はご健在だ。
「あんたのおばあちゃん、これで死ぬの五回目よ。そろそろギネスブックに登録されるかもね」
二回目で既に記録更新だということはさておいて、
「ま、せいぜい頑張りなさい。きっと無駄でしょうけど」
頬杖をついたまま欠伸をするジッコを、由衣は恨めしそうに目を細める。
「親友だったらもう少し応援してくれてもいいんじゃないの?」
「親友だからこそあんたにはもう少し現実を見て欲しいのよ。片桐先輩じゃなくても、由衣にはもっとお似合いの人がいるわよ」
諭すような言い分だが、その声には全く熱がこもっていない。ジッコ自身言うだけ無駄だと言うことを理解しているからだが、実際由衣は聞く耳持たないと言わんばかりに口を尖らせていた。
誰が誰を好きになろうと自由なはず。もちろん、テレビに出ているようなアイドルに恋するなんて馬鹿げているとは思っている。
だが、もしそんなアイドルのような人が身近にいれば、それも同じ陸上部の先輩なら、別に好きになったっておかしくはないはず。
バレンタイン前日、昼休みに覗く空は灰色の雲に覆われている。まるで天候までもが由衣に味方してくれない気がして、表情に出さない苛立ちが募る。
由衣は窓に顔を向けて、灰色の雲を吹き飛ばすように溜め息を吐いた。
「溜め息をつくと幸せが吹き飛んじゃうわよ」
頬杖をつきながら気のない声で言うジッコを睨み、そして言われたばかりにもかかわらず、由衣の口からは再び溜め息がでるのであった。
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