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放課後、宣言通り由衣は部活をサボって学校を抜け出していた。学校を抜け出る途中で部長とすれ違ったときには肝を冷やしたものだが、部長は由衣がこれから部室へ向かっているのだろうと思ったのか、挨拶をするにとどまっていた。
今はもう電車の中、冷や汗も乾いたところで、由衣はこれからの計画を練ることに決め込む。
とは言ってもやることは一つだけ。もちろんチョコレートを買うということだ。
問題は、どこで買うかということ。年に一度の一大イベント、この機を逃す手はない。
お正月のお年玉もまだ残っている。欲しかったお財布も可愛いコートも我慢した。金遣いの荒い由衣にとっては並々ならぬ努力だろう、それだけにジッコに“夏休みの宿題”呼ばわりされたのは心外に他ならなかった。
偉いぞ、自分、よく頑張った! と、マラソンを一位でゴールしたランナーのように自分で自分を褒め称えた由衣は、結局行き先も決まらぬまま、彼女の住む地域でもっとも華のある駅を降りたのだった。
人ごみに紛れ、商店街をただ歩く。チョコレートをどこで買おうかと悩んでいた由衣だったが、結局商店街を抜けた先にある大型百貨店で買うことに決めたらしい。そこならブランド物のチョコレートが売っているはずだ。
そう決め込んで意気揚々と街を歩く。途中でお気に入りの服屋の前を通りかかったが、後ろ髪を引かれる思いでその店を通り過ぎた。
まずはチョコレートを買ってから。その後からでも十分お金は余るはずだから、帰りがけにちょこっとだけ寄ろう。
そんな楽しみに胸を膨らませながら目的地であるデパートに向かっていた由衣だったが、急にその足を止めることになった。
――何か、いい匂いがする。
街頭販売されている焼きたてのクロワッサンの匂いでもない。頭にバンダナを巻いた若い兄ちゃんがたこ焼きを焼いている匂いでもない。
もっと甘くて、もっと惹かれる匂いだ。
気付けば由衣はその匂いを辿って足を進めていた。その匂いはまるで自分を誘っているかのように、強く強く彼女を惹きつける。
まるで犬にでもなったかのような気分を味わいながら、由衣はその匂いを追いかけた。
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