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やがて、ある店の前で立ち止まる。
商店街から外れた、ちょっと小さな通りに入ったところで由衣は匂いの出所を見つけたのだ。目の前にはレトロな雰囲気を醸し出す洋風の洒落たお店があった。
まだ明るかったせいか両隣でお酒を扱っていそうなお店はまだ開いていない。人気のない、なんとも寂れた通りだった。
匂いだけでお店を探り当てられるなんて、と由衣は胸中で呟くが、果たして目の前の建物が本当に“お店”かどうかは疑わしい。
というのも、目の前のお店が開店している気配が見られなかったからだ。
ショーウィンドウはあるものの何が飾られているでもなく、ただ白い布が棚に覆いかぶさっているだけだった。
中を覗こうにもショーウィンドウ越しの店内は暗くて様子が分からないし、それ以外に中を覗きこめる場所はない。
人もいないし、物音一つ漏れてこない。潰れているんじゃないかと思うような外観ではあるが、営業中であるということは小さな吊り看板に“OPEN”と書かれていたことから分かった。
由衣は頭を高く持ち上げる。入り口のドアの上部にアーチ状の木の看板が掛けられており、そこにはその店の名前だと思われる文字が刻まれていた。
“Mary’s Garden”
マリーズ・ガーデン。ガーデンという名前から一瞬花屋を連想したが、その考えはすぐに払拭される。
店先には花どころか草ですら一本も生えていないし、何よりもこの匂いが花の香りだとは到底思えなかったからだ。
何とも怪しい雰囲気ではあったが、由衣はどうしてもこれが何の匂いかを突き止めたかった。
ドアノブを捻る。鍵はかかっていない。OPENと書かれていたのだから当然と言えば当然だが。
好奇心に負けて由衣は店の中へと入っていった。カランカランと入店を告げるベルの音が鳴り響き、そして通りには再び静寂が訪れるのであった。
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