祖父のカメラ

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夢は夢か、と一つ安堵のため息をもらしたあと、私はもう一度スタンドライトの灯りの中アルバムを眺めた。 笑顔。自然。ピンぼけした写真はともかく、その素晴らしい風景をおさめた写真は何度見ても清々しさを覚えた。 自分には写真家の才能があるかもな、等と微笑んだ後アルバムをしまい、私はカメラを手にした。 丁寧に磨いたそれは薄明かりの中でも黒と銀の輝きを発していた。思い描くままにプロのカメラマンのようにカメラを構え、レンズをのぞく。     レンズの向こうの世界には夢で見た最後の瞬間のままに黒いモヤの指が迫っていた。 再び激しくなる心臓の鼓動。あまりのことに驚き顔を離そうとするが体は言うことを効かない。レンズのむこうでは大きな傷を持つその腕が夢のときと同じようにゆっくり着実に迫っていた。声にならない悲鳴をあげながら、私はもはやまぶたを閉じることも許されなくなった体で今まさに瞳に触れようとする影の指を只見つめていた。 ――ずちゅり
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