26人が本棚に入れています
本棚に追加
暫く、沈黙が辺りを包んだ。
「お前さんは知っているのか?『神覇』の強さを…」
戦闘長は重く口を開き始めた。
「彼は強い。それも魔術だけでは無い。体術、心、そのすべてにおいて、彼は完璧だった。ただひとつを除いては…」
その続きをガイルは聞こうとする。
「その、ひとつ…とは?」
戦闘長は話を続ける。
「自分の願いをかなえること…夢じゃよ」
戦闘長は重く息を吐き出し、ガイルを見た。ガイルは目を伏せ、何かを考えていた。
「お前さんにもあるだろう…夢くらいなら」
暫く考え込んでいたが、ようやくガイルは口を開き始めた。
「家族と…幸せに暮らすこと…だと思う」
「そうだ、それぞれがみんな夢を持っている。それがいいことなのか悪いことなのかは別にして…だ。だが、奴には夢がない。奴が此処にいる理由…それは、魔族を虐殺することだけだ」
それにガイルは反論する。
「魔族を虐殺することは夢…に含まれるのではないのですか?」
戦闘長は一呼吸おいて、再び話し始める。
「断じて違う。奴は復讐という名の虐殺を行っている。ただしそれは何かの夢を叶えるためでは無い。ガイルよ…考えてみろ。魔族を虐殺し続けて何が手に入る?」
「何も……ありません」
ガイルが口を紡ぐと、戦闘長は続けた。
「そうだ。だから奴には魔族を殺すことしかできない兵器…なのだよ。兵器は信用できる。なにより、こちら側に矛先が向くことはないのだからな」
「戦闘長!!それは利用しようとしているだけでは無いですか!人を利用することがあっていいのですか!!」
最初のコメントを投稿しよう!