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「やっぱり私、ネイおじさんと踊る!」
「ははは、それは光栄ですな。フィオお嬢様」
「さぁお手をどうぞ」とかしこまった口調でうやうやしく手を差し出したネイに、フィオは「うむ」と満足げに頷いて彼の手にしがみ付く。
「振られたねぇパパは」
「フィオは早くも反抗期かい?」
養老院の広い食堂に、老人達のほのぼのとした笑い声が響く。
最初、僕等夫婦だけが踊っていた静かなワルツはやがてフィオのゆりかごの脇を離れ、週一恒例全員参加のダンス大会へと形を変えていた。
古い蓄音器と何枚ものレコード。ワルツだけではない。ジルバ、タンゴ、チャチャチャにクイックステップ、チャールストン。ありとあらゆるダンス音楽が流れる。
「どれ、わしは婆さんと……」
車椅子に座る妻と起用に踊るお爺さん。寝たきりながらも、リズムに合わせ楽しそうに首を降り手を叩いているお婆さんがネイの祖母だ。皆、思い思いに踊ったり談笑したりしている。
養老院の生活が始まって約八年。呆けてしまったり起き上がれなくなってしまった老人達も居るが、皆元気で暮らしている。
だがしかし、一番元気なのは勿論やんちゃ盛りのフィオだ。
沢山のお爺さんお婆さん達に溺愛され、我侭になりそうなのを僕とリズで必死で躾けて。笑ったり泣いたり怒ったり叩いたり抱きしめたりしながら、なんとかここまで来た。
「フィオ、次はお爺ちゃんとどうだい?」
「はぁい!」
ひらひらとスカートの裾を翻し、フィオは食堂中を駆け回る。
「やれやれ、私も歳だな。フィオの体力には付いて行けないよ」
ネイが荒い息を吐きながらやって来て、僕の隣で壁に背を預ける。
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