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「お疲れ様、ネイ」
「お転婆姫の相手は大変だな父上殿」
「ああ。……明日は海に連れて行くと約束させられたよ。明日も疲れそうだ」
カラカラと声を上げてネイは笑った。
「良いじゃないか、海水浴にはぴったりの頃合いだ」
それに、と言葉を区切り彼は食堂の中央で飛び跳ねるように踊るフィオを見つめた。
「良い事だよ。フィオが元気で健康なのは、良い事だ」
僕も無言で頷いた。
娘があまりに元気なので、僕はたまに忘れそうになる。彼女がいつ発症するか解らない病魔をその身に飼っているという事を。元気で生きている一分一秒が、とても貴重だということを、忘れそうになる。
フィオも知恵が付いて来て、度々質問をして僕やリズを困らせた。
「何故、子供は私だけなの?」
「箱舟って何?」
「みんな何処へ行ったの?」
「どうしてパパやママは残ったの?」
ネイやリズとも話し合い、彼女が理解できる範囲で本当の事を伝えていた。
いつか世界が無くなってしまうから、だから皆は大きな船に乗ってお星様の場所へ旅に出たんだ。
パパとママの家族やお友達もだ。だから此処にはフィオしか子供は居ないんだよ。
お爺ちゃんやお婆ちゃん達はお年寄りだからね。旅に出るのは疲れるから、嫌だったんだ。ネイもそんな皆の面倒を見たいなぁと思って残る事にしたんだ。
パパやママが残ったのは……。ママの体調がね、その時凄く悪かったからなんだ。
唯一ついた嘘はそれくらいだろうか。
「箱舟に乗るには君を諦めねばならなかった。でも君を産みたかったから、君と一緒に居たかったから、だから箱舟には乗らなかった」
本当の事は言えなかった。
自分の為に、僕とリズが地球に残ったなんてフィオには思って欲しく無かったのだ。
フィオを欲しがったのは僕達だ。いつか発病してフィオは辛い思いをするだろう。それなのに、僕等は彼女に会いたかった。
フィオが確実に背負うだろう病の、死の、苦しみ。それを解っていて、僕等は自分の我侭の為にフィオを産みたかった。
それが正しいのか、間違っているのかは…………解らない。
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