願い星

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地上の皆はちょうど4世代目が大人になる頃かな。主要なテクノロジーが、エネルギー源が消失しても、なんとか生き延びているようだ。 たまにソーラーエネルギーを利用してのラジオ放送や通信が衛星軌道上まで届く。 色々な音が電波に乗ってやってくる。流行歌、君が懐かしがるような大昔のメロディが聞こえたりもする。その他にも祈りの声とかね。 「私の住む集落は寒くて暗いの、舟よ早く迎えに来て」 昨日聞こえたのは小さな女の子の願い。彼女は大人たちになんと教えられたのだろう。昔地上を飛び立った移民船はもう二度とこの星には戻らないのに。 あと200年後には大きな石が降ってきて、月と地球は宇宙に散らばる塵となってしまう。 大多数の人々はありとあらゆる技術と物資を用いた大きな船で旅立って、地上に残った僅かな人々は資源の枯渇したこの星で細々と……でも確かに生きている。 たまに思うんだ。 いつ辿り着くとも、見付かるかどうかも解らない新天地を、船のなかでずっと眠りながら待つ人々と。 明確な終末が決まってはいるけど、不自由極まりなくとも必死で生きようとする人々と。 どちらがより『人間』らしいのだろうと。こんなことをただの観測衛星の人工知能が考えるのは、可笑しいかもしれないけれど。 地球の気温は今も上昇を続けている。二酸化炭素を排出する工場や電気機器、自動車等の消滅で一時期よりは緩やかになって来てはいるけど。 南極大陸の氷は70%が海に還った。 冷たい氷の奥底で泳いでいた鯨の一種が絶滅して、南方の大陸が半分水没して、集落が四つ消えた。そこに住んでいた人々は分散されて、別の場所に移住することになったよ。 人は強いね、消える命も多いけれどでも毎日どこかで誕生も確実に有るんだよ。 識者の予想では残存人類数は減る筈だったのに、これが若干だけど増加傾向にある。 ……だからそれが滅ぶだなんて信じられないんだ。
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