願い星

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希望。 そんな言葉を機械である僕が紡ぐのは可笑しいと解っている。 僕らは機械で、状況を数式や様々なデータを参照し論理的に判断するのが仕事の筈だ。 隕石は今日も衝突コースを進み続けている。間違いなくあと199年後にこちらにやって来る。 嗚呼、それでも僕は期待してしまうんだ。 もしかしたら、何か美しく仕組まれた偶然が起こってその軌道がずれやしないかと。 奇跡という現象が起こってはくれないかと。 君はきっと笑うだろう。「可笑しい」という感情が君にも有ることは僕は信じて疑わないよ。だって僕等は同じ電子頭脳を持っているのだから。 無駄だとは解っていても、青い星の上を飛び続けていると願いたくなってしまうんだ。僕等を作った人間はもしかしたらそう願ってほしくて、感情なんていうプログラムを取り付けたのかもしれないね? 諦めてしまった自分達に代わって、希望を持っていて欲しいと。 僕は飛び続ける。この星が終わるその日まで。船が飛び去った後の地球を、隕石が飛来しその後の顛末を観察するという与えられた任務を全うするその日まで。 もしも僕のバッテリーが尽きるその日まで、この星があり続けるとして。実は僕には一つ企みが有る。この身体を、光にしてしまう事だ。 地球を滅ぼしてしまう強大な星じゃなくて、美しい一条の星光になりたいんだ。 簡単だ、周回軌道を若干修正して大気圏に突入すればいい。強い引力に引き寄せられ身体は燃えながら地上に落ちて行くだろう。 生き続けている、存在し続けている人類の内誰か一人でも良い。それを見つけて欲しい。そして流れ星に祈りや願いを、告げてほしいんだ。 焼け付きながらも、僕はその祈りを記憶しつづけるだろう。例え燃え尽きる螺子のただ一本で有ったとしても。 船は来ない。帰って来ない。だから見捨てられたこの星の上に流れる、ちっぽけな希望に僕はなりたい。 ねぇ兄弟。 那由多の無量大数の時間。遙かな星々を巡り、永遠に飛び続ける我が兄弟。 辛くはないかい?何億もの命は重くないかい?新たな人類のゆりかごはみつかりそうかい?このメッセージが君に届くのはあと何百年先になるんだろうね? 僕のバッテリー残量があと100年を切ったらまたメッセージを送る。届くかどうかは解らないけれど。 僕等の故郷は、母なる地球は今日も青く綺麗だよ。
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