浸水する揺りかごの上でワルツ

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苛立ちなのか悲しみなのか、自分の胸で渦巻いている感情を推し量れないままで。 俯いたままのリズが痛々しくて溜息を付きながら細い腰に手を回す。ゆっくりと抱きしめると、頑なに突っ張っていた彼女の心が解けていくようだった。 「船に乗れば、ずっとずっと眠っているのよね?」 「そうだろうな、何百光年も旅をしながら眠る。コールドスリープのポッドの中でね」 「理屈ではわかっているのよ、キノ。私達が生き延びる為だし、環境に耐えられない子供だし。二つの命とまだ人間として形成途中の命と、どちらかを選ぶなら……。でも、理屈じゃないでしょう?私達のパパやママ、理屈だけで育ててくれた?」 「いや、理屈理論だけじゃないな」 「ええ、それだけじゃない。きっちり愛してくれたでしょう?嫌なの、ちゃんといるの。まだ人の形すらしていないけれど。この子をどうにかして、船に乗ったとしても私はずっと後悔する。数百年の長い旅路の中、ずっと悪夢を見続けるの。それなら夢なんか見ない方が良い、船なんか乗らない方が良い」 「コールドスリープ中も、夢は見るのかな」 ぽつりと呟くと、腕の中でリズは首を挙げ微かに笑った。 「見るんじゃないかしら」 「……隕石が来るまで、あと300年だっけ?どうせそれまでに僕も君もこの子も死んじゃうか。続く悪夢は僕だって勘弁したいな。知ってたかい?実は僕、子供の頃ボーイスカウトに居たからアウトドアは得意なんだ。サバイバル生活の助けになるかもしれない」 「知らなかったわ」 泣き笑いの表情で彼女はそう答えた。 「苦労するよ、確実に。今まで以上に喧嘩もしそうだ」 「解ってる。ごめんね、キノ」 「いいよ、いいさ。いつだって君の意見に僕は賛成しちゃうんだから」 どうせいつか終わるのだ、全て。 ならばその終わりを、僕等は自分で決めたいと思った。 この星に、遙か先消失してしまう地球に残ろうと。 箱舟選定委員会に、乗船拒否の書類を送る。面倒な手続きの後、僕等は地球に残るのを許された。 リズは元気な女の子を産んだ。僕の父が名付け親になってくれる。小さな女の子の名前はフィオ。 僕等を地球に縛る原因となった孫の誕生を、リズも僕の両親も祝福してくれた。
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