浸水する揺りかごの上でワルツ

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そして、船が発つ朝が来た。 僕等はソーラーカーに乗り込み、人影の無くなったがらんどうの街を抜け、小高い丘の上からそれを見送った。 あの日の情景を、僕は一生忘れないだろう。 世界中の人々を、僕の両親を兄弟を友人達を乗せた箱舟。 青空の中を、高く高く大きな船が昇っていく。巨大な船体はどんどん小さくなり、完全に見えなくなる。 人類は地球から去ってしまった。ごく僅かな人々を残し、青い母なる星から、ゆりかごから旅立った。 リズと僕はずっと空を見上げていた。 「みんな、行っちゃったね」 ぽつんと呟く。隣でリズはこっくりと頷く。 「後悔、してる?」 「しないわ。しちゃいけないと思ってる、この子の為に」 リズの腕の中で、フィオはすやすやと眠っていた。 元気な赤ん坊。この子が約十年後には死んでしまうかもしれないなんて、僕にはちっとも信じられなかった。 「さぁ帰ろう、リズ」 そして行こう、新たな生活へ。 僕等の新しい家は、郊外の静かな森の中に有る小さな養老院。選定委員会が紹介してくれた場所だ。 そこには地球に残ることを決めた、この地区に住み続けたいと望んだ僅かな人々が、寄り添うように暮らしていた。「ここで産まれたからね、生活が不便でもやっぱり土の上で死にたいのさ」 「そうそう、どうせ老い先長く無いしね」 優しく穏やかな老人達と、一人の医者。 「祖母が残りたいと望んだ時にね、私も決心したんだよ。爺さん婆さんの世話をしながら終わる人生も、楽しいだろうって」 ネイというその中年の医者、僕等は彼に随分と世話になった。そして生涯を通じての親友となる。 電気もガスも水道も止まった。井戸の水をポンプでくみ上げ、煮炊きは火を使い、夜の灯はランプに変わる。菜園を作り、魚を釣り、蝋燭ですら蜂の巣を加工してのお手製という実に原始的な生活が幕を開けた。 実際苦労の連続で。それでも僕等がなんとかそれに順応できたのは、医者であるネイと人生経験が豊富な老人達が居てくれたからだ。
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