浸水する揺りかごの上でワルツ

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「あらあら、夜泣きが酷いのねフィオは。どれ、お婆ちゃんに少しかしとくれ……ほら、泣き止んだ」 「いかんいかん、これだからクワ一つ握ったことの無い若いのは!ちゃんと腰を入れて、そう。その姿勢じゃ」 「今の時期の乳幼児は急に熱を出すことが多いんだよ。……うん、大丈夫。フィオはきっと明日の朝には元気さ」 子育てなんて初めての僕等を、皆が支えてくれた。きっと僕とリズ二人きりじゃ何も出来なかったに違いない。 度々感謝の言葉を口にすると、老人達は顔を皺くちゃにして笑いながら首を振る。 「いんや、礼を言うのは私達さ。静かに終わるだけだと思っていた生活が、あの小さな赤ん坊のお陰でなんだか張り合いが出てきたよ」 「あの子は我々全員の孫だね、きっと」 「やれやれ。皆して、でろでろに甘やかす気だね?」 「そういうあんただって!」 「その通りだとも!」 ネイは度々相談に乗ってくれた。 「価値観は色々だから、一概に正しいとは言えないかもしれない。でもリズ、キノ。君達の勇気有る決断、私は凄いと思うよ」 フィオの病は、いつ発症するか解らない。 例えるなら彼女の体の中には時限爆弾のスイッチが有り、それはいつか必ずONになる。成長するとともに、起爆の可能性は高まっていく。そして一度爆発してしまったら、後はあっと言う間。 まずは手や足から弱まる。立てなくなり、掴めなくなり。そしてやがて全身の筋肉がやせ衰え、最後は心臓もしくは肺も衰弱し、止まる。 僕達はフィオがこのまま赤ん坊のままで発症して欲しくないという思いと、彼女が寝返りをうち背が伸び体重が増え片言をしゃべり出し……その成長を喜ぶ思いと、二つの相反する感情を抱き続けていた。 フィオは大きくなる。どんどん大きくなる。
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