【接触】

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全寮制である誠藍学院の広大な敷地は、大きく分けて四つのエリアに区切られていた。 敷地の北側に中等部エリア。 東側が大学部エリア。 西側には県下最多の蔵書数を誇る図書館や、総合体育館など全学部共有の建物が並ぶエリアがあり、ここは一般解放もされている。 そして、そんな学院の南側が、雨流や鷹野の在籍する高等部のエリアだ。 校舎はもちろんのこと、それぞれのエリアに体育館や武道館を始めとする最新の設備を備えた建物が建てられている。 生徒たちの生活の場となる学生寮もその一つで、学生寮らしからぬ豪華な設備を備えていた。 高等部の学生寮は、名を白鴎寮(はくおうりょう)という。 この日、白鴎寮の広く清潔な食堂には、『新入生歓迎会』と大きく書かれた横断幕が掛けられていた。 その様子は、さながらパーティー会場のようでもある。 もともと中等部からの持ち上がりが多い誠藍だけに、高等部の先輩といっても顔見知りが多く、和やかな雰囲気の中で歓迎会は行われていた。 部活動の勧誘も兼ねた新入生歓迎会という名の飲み会は、お年頃にも関わらず普段男だらけの不毛な寮生活を送る生徒たちにとって、年に一度のお楽しみ。 新入生に振る舞う食事や飲み物は生徒会の予算から出ているものの、中には優秀な生徒を一人でも多く獲得したい各部の部費から賄われているものもある。 けして余裕が有るとは言えない部費の一部を削り、新入生の中から優秀な生徒を獲得するという慣わしは、創立以来代々受け継がれてきたとか、こないとか。 表向きは生徒会主催の歓迎会なだけに、さすがに酒の類はないけれど、ノンアルコールのビールならあると言うのだから、生徒会もやってくれる。 世間では名門と謳われる誠藍学院の将来有望な生徒たちは、遊び心も決して忘れない。 見知った顔の多い中で、親睦を深めるなど今更といえば今更なものだが、それでも、外部入学の生徒たちには必要なものだった。
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