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それなのに勧誘がないとはどうしたことかと、本間でなくとも疑問に思うことだろう。
「何やらかしたのさ?」
「別に何もしていない」
意識せず疑惑の視線を投げかける本間に、雨流は素っ気なく応えた。
「そんな訳ないでしょ。
蒼葵ほどの人材をいらないなんて言う馬鹿な運動部がどこにあるのさ」
中等部時代、どこの部活にも所属していなかった雨流をどうしても諦めきれず、三年間熱烈なラブコールを送り続けた運動部を、本間はいくつも知っている。
そんな雨流を、高等部の連中が放って置くはずがない。
必ず裏に何かがあるはずだと、本間は確信していた。
あまりしつこく食い下がって不機嫌になられても困るので口には出さないが、内心ではあれこれ想像を働かせる本間だ。
雨流が他人にキレるのは一向に構わないが、その怒りが自分に向けられるのだけは、絶対に御免被る。
『自己中心的』『至って凶暴』と噂される雨流と三年間行動を共にしていながら、本間が一度たりとてその怒りを買うことなく過ごせる理由はただ一つ。
完璧な自己保身術を身に付けているから。
要らん事は言わないに限るのだ。
今世紀最大(?)の疑問を残しつつも詮索を諦めて会場を見回した本間の視界に、異様なまでの人だかりが飛び込んできた。
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