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「可愛いじゃん」
「何、蒼葵。
あぁいうの好み?
確かに美人さんだけど、真面目過ぎじゃない?」
「いいね。
汚してやりたくなる」
一見どこの学校でも普通に交わされていそうな会話に聞こえるが、実のところ普通じゃない。
誠藍学院は、男子校だ。
在校生はもちろん新入生も全員男な状況で、まったく違和感なく好み云々の会話が成り立ってしまっている時点でおかしいのだが、残念ながらその異常さを指摘する者はいなかった。
男子校という特殊な環境では、同性愛がナチュラルに受け入れられていると何かの本で読んだ気もするが、誠藍学院も、そんな学校のひとつなのかもしれない。
『―――以上。
新入生代表、鷹野叡知』
挨拶が終わり、真新しい詰襟をきっちりと着こなした美人が壇上を後にするのを、雨流は目で追っていた。
フレームレスの眼鏡の奥にある、意志の強そうな瞳。
色素の薄い髪。
ほっそりとした肢体。
硬く引き結んだ口許が人を寄せ付けない雰囲気を纏っているのも、全てが雨流の好みに当て嵌まっている。
眠気も退屈も、いつの間にか吹き飛んだ。
どうやってお堅い美人優等生を手中に納めてやろうかと、雨流はそれだけを考えていた。
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