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知らないというよりは、辛うじて苗字だけは知っている、とでも言うべきか。
他に話し掛けてくる奴もいないので、いつも本間のことは『お前』とか『おい』としか呼ばない。
同級生に対する態度としてはかなり横柄に思えるが、本間本人が気にもしていない様子なので雨流はそのままにしている。
「その気になっても、無理なものは無理。
俺、そこまでお利口さんじゃないから。
あるいは、蒼葵ならとれるんじゃない? 全教科満点」
くすくすと笑いながら、本間は鷹野の席へと目を遣った。
雨流の言うとおり、馬鹿に興味がないのかどうかは知らないが、群がる生徒たちに鷹野は面倒そうに対応している。
再び雨流へ視線を戻すと同時に担任が教室に入ってきて、本間は体勢を入れ替えた。
自己紹介から始まって、委員会の役員割、部活動や寮生活の説明など、初日の日程は誠藍も他校と変わりない。
「それじゃ、クラス委員は本間と鷹野でいいな?」
「はい」
「嫌です」
内部と外部、それぞれからクラス委員を選出した担任教師に、応えた二人の声は同時だったが、内容はまったく異なったものだった。
模範解答を返したのは、もちろん優等生鷹野。
同じ優等生ながら、本間は不機嫌な様子を隠そうともせず、きっぱりと否定した。
ついでに、自分の意見を言うことも忘れない。
「クラス委員なら、このクラスには俺よりも適任がいますので、辞退します」
「誰だ?」
適任者が他にいると言われても、本間と鷹野以外に思い当たる節のない担任は、訝しげに問い返す。
だが、それがそもそもの間違いだったのだ。
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