第一章 穏やかな日常

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 月平が長い言葉を言い切った。その時の光輝の顔は凄く真剣で、静かな空気が一時流れた。 「この家にコンパスってあるか?」  光輝が月平に聞いた。 「あるよ」 「地図は?」 「もちろんだ」  そこで光輝がにやっと笑みを浮かべた。 「まずはこの寺を中心に文献の方角通り行こう。明日からだ。みんな自転車を忘れるなよ」  光輝が仕切る。俺はそんな光輝に質問した。 「ところでこの資格って奴はどうなる?」 「資格があるかないかなんて実際に最後までやってみればわかるだろ」 「適当だな」 「人間細かいことに捕われていたら幸せなんかにはなれねぇのさ」 「なんで?」 「息苦しいからさ」 「息苦しい?」 「ああ息苦しい。人生をどうしたら幸せになれるかばかり考える哲学者より、何も考えないでただ自分の思うとおりに生きている馬鹿のほうがずっと幸せで偉いと思わないか?」 「残念ながら俺はそうとは思えないな」 「まあいいや、とりあえず今日は自転車をもってない美紀がいるからここまでだ」 「ごめんね。今日、車で送ってもらっちゃったから」 「大丈夫、突然いい出した光輝が悪いんだ」 「修二ありがとう。」 美紀は修二に嬉しそうに微笑んだ。  そしてその日はもうそこでばらばらに別れた。 一人で帰り道を自転車で走っている時だった。 閉鎖したビルらしきところから、貴一が出てくるのを見た。 「あ、また会いましたね」  貴一が声をかけてきた。 「そうだな。奇遇だな。ん?さっきいた桃花ちゃんは?」
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