第一章 穏やかな日常

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「さて、何か話題ある?」  と貴一がケロっと聞いてきて驚いた。 「おいおい、いきなり貴一から、話しをしたいから喫茶店に行こう、って誘ってきたのに、話題を普通聞くか?」 「いやだって思いつかないから」 「はあ…少し呆れたよ。まあベタなのはテレビで見た番組の話しで盛り上がるとか?」 「テレビか、そうだ、この前テレビで面白い話しをしていた。」 「何を?」 「修二、君はピエロの話しを知っているか?」 「ピエロ?」 「テレビで解説していたんだけど、日本で呼ばれている『ピエロ』は、ヨーロッパでは一般に道家士、『クラウン』と呼ばれているんだ。そしてヨーロッパでいう『ピエロ』とは、狂った殺人鬼を表すそうだ。」 「そりゃ凄い話しだな。初めて聞いたよ。サーカスと殺人鬼だなんて、全然意味が違うな。」 「だよね。俺もそう思った。しかも『ピエロ』は人を笑わせるんだ。面白いだろ。」 「なんで笑わせるんだ?」 「さあ、そこまではよくわからないな。」 「ふーん。そのピエロは幸せじゃあなかったのかな。」 「そんなのわからんよ。ただ俺は…今幸せだ。」  自分の事を幸せだと言う貴一は言葉と逆にどこか寂しそうな顔をしていた。だからつい今日、光輝の言っていた言葉を言った。 「知っているか?人生どうすれば幸せになれるかばかり考えている哲学者より、何も考えないでただ自分の思うように生きている馬鹿のほうが幸せで偉いんだぜ?」  それを貴一はなにかを考えるように黙り、口を開いた。 「…それは修二君の言葉じゃないね。その言葉を言える奴は幸せな奴だ。決して不幸せな人は言わない。自分の思う通りに生きられないから不幸なんだよ。修二は記憶がない。だから修二は不幸を嫌っていうほど経験したはずだ。だからその言葉は別の人の言葉、違うかい?」  図星だった。でも貴一の言う事はごもっともだと思った。光輝は幸せ。俺はそれでいいと思う。光輝のそばにいると光輝の幸せを分けてもらえる気がするから。 「当たりだよ。さすが桜木高校に通うだけあって、貴一は洞察力がすごいな。」 「いやいや、そんな事ないよ。ただ推理小説が好きだから、鍛えられたんだと思う。」
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