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「ぅ……うわあぁぁーーー!!」
ツバキは先程までロイのモノだった、地面に落ちている腕を見て、無我夢中で走り出した。
「ハァ、ハァ………」
ツバキは気が付くとベースキャンプまで来ていた。
全力で走りつづけたツバキは、膝に手を置き、息をととのえようとする。
(ジン…ジンは!)
ロイと行動を共にしているジンはどこに行ったのかが心配だった。
「どうしたんですか?ツバキさん、血がついてますよ」
不意に後ろから話しかけられ、ツバキは一瞬驚いたが、ジンの声が聞こえ、無事だったのか。とツバキはホッとした。
しかし、髪や肩についた血が、ロイのあの姿が真実だった事、ロイにはもう二度と会えないのだと知らせる。ツバキは涙を流した。
「いや……べつに…」
ツバキはジンに背を向けたまま返した。
狩り場にいる今、ロイのことを話す気にはなれなかった。今ならまだ間に合うかもしれない父親のもとへ、また戻ってしまいそうな気がしたから。
街へと帰る馬車の中、ロイがいないのを不思議に思うジンに説明しながら、山にしずむ夕日を見ていた。
ツバキの手には、ロイの武器であった<鬼斬破>が握られていた。
第1話『影』 完
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