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狐は、深いため息を一つつくと、遠くを見ながら、しゃべり始めました。
「別に用はないんだけど、何だか物悲しくてさ。僕とライオンが友達なのは知ってるだろう。」
「ああ、乱暴者とペテン師野郎、似合いのコンビだよな。」
「その乱暴者も病には勝てないらしい。今日見舞いに行ったら、すっかり弱っちまって、背中を駆け回る鼠すら、追っ払えない状態さ。僕が追っ払ってやったけど、ライオンの奴おいおい泣きだす始末で、弱ったよ。何でも、何匹も囲っていた愛人の雌ライオン達も、ヒトタビ奴が病に伏せった途端、看病どころか鼻も引っ掛けない。それどころか、皆して若い雄ライオンのもとへ走っちまったそうだ。豹変って言葉があるけれども、雌ライオンの事じゃないかと思ったよ。それにしても、鼻水なんか垂らして、グズグズ泣くし、本当に惨めたらしくってさ。あれが百獣の王と人間どもに言われている者の末路かと思うと何だか生きている事が悲しくなってきてねえ、人間の吉田兼好とかいう奴がほざいてた、命永ケレバ恥多シ、っていうのをしみじみ感じたねえ。僕も体が動かなくなって、惨めな姿を曝す位なら、その前にポックリ逝きたいものだね。」
狐はここまで話すと、辺りを見回して、
「僕とした事が、とんだおしゃべりをしたねえ、この事は他の者には内緒だよ。後、ライオンを見舞ったりするのも、できたら遠慮してあげてね。今のライオンは惨め過ぎるから」
と言って立ち去りました。
さて、兎です。「友の憂いに我は泣き、我が喜びに友は舞う」なんて、浅薄な校歌がどっかの旧制高校にあったらしいですけど、人間なんて、大概そんなきれいなモノじゃありません。人の不幸は蜜の味、溺れる犬はぶっ叩け、というところが本当のところでしょう。兎は人間ではないので、それほどヒドイとは、思いませんが、何しろライオンは自分を食ってしまおうと追い回す憎い奴。それが、身動きもとれないほどヘタリ込んでいると聞いて、その無様が見たくて見たくて仕様がありません。
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