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芹香がキャバクラに勤めだした頃、父は心配でたまらなく毎晩のように変装して芹香の店に行っていたらしい。
そこのママさんに事情を説明して、芹香を席に近付けないで欲しい、自分の姿が見えない席を用意して欲しいと頼んだ。
毎晩、行っていた父は当然のようにママに気に入られ、常に父の席にいたのだが、興味のない父はママに話かけられようが、お構い無しに壁の隙間から芹香を見ていた。
親バカという域を超え、はたから見れば、ただのストーカーだ。
順調にいっていたように思えたが、二週間もたたないうちに父はバレてしまった。
それは、父がトイレに行って出て来た時の事だった。
<芹香>『お父さん!!!』
凄い剣幕で目の前に芹香が現れた。
父は鼻の穴を膨らませ、物凄く動揺したが、平常心を装った。
あたかも、呼ばれたのは自分じゃないかのように、
“失礼!”
と恐る恐る芹香の横を通り過ぎようとしたが、素早く行く手をはばかれ、仁王立ちで腕を組み父を睨んでいた。
<父>『あっ、誰かと思えば~!芹香じゃないか!!
いや~、こんなとこで会うなんて奇遇だね…………。』
なんとまぁ、ヘタな嘘。
他になかったのかよ、嘘つき通せるような言葉は…。
ハンカチでは追い付かない程の汗ですが、父上。
<芹香>『奇遇じゃないでしょ!!!何してるの!!こんなとこで!
しかも、今の何?
知らない振りすればバレないとか思ったの?
どっから見てもお父さんてバレバレなんですけど。
私が心配で見に来たんでしょ!!
もう、信じらんない!』
変装と言っても、ただ髭をつけただけで、そりゃバレますよ、父上。
ママが気付いて飛んできた。
<ママ>『ごめんなさいね、桐生さん。
芹香ちゃんの着いてたお客さんが桐生さんの会社の方だったみたいで…
それで桐生さんが御手洗いに行かれる時に
“会長がいらっしゃってる”って会社の方が気付いたみたいなんですよね…
それが、芹香ちゃんの耳に入っちゃって…』
――痛恨のミス!!
父は芹香に見つからないようにする為だけに隠れていて、他のお客さんに見られているなんて予想もしていなく芹香以外はノーマークだったのだ。
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